概要
原著者の許諾を得て翻訳・公開いたします。
- 英語記事: Pulling the trigger: How to update counter caches in your Rails app without Active Record callbacks — Martian Chronicles, Evil Martians’ team blog
- 原文公開日: 2019/11/19
- 著者: Dmitry Tsepelev
- サイト: Evil Martians -- ニューヨークやロシアを中心に拠点を構えるRuby on Rails開発会社です。良質のブログ記事を多数公開し、多くのgemのスポンサーでもあります。
日本語タイトルは内容に即したものにしました。
Rails: Active Recordコールバックを使わずにカウンタキャッシュを更新する(翻訳)
本記事では、Active Recordと好みのSQLデータベースで、データベーストリガーを「集計されたデータの一貫性を維持するツール」として使う実験を行いました。フィルタや検索でElasticSearchのような洗練されたツールを使うのではなく、データベースですぐ使える機能をいくつか使って同じ結果を得られるシンプルなアプローチをデモします。ボーナスとして、いまいましい競合状態を回避する方法についても解説します!
集計された値をいくつか用いて、データベース内のレコードをソートまたはフィルタする必要が生じることがあります。たとえば、管理画面でユーザーリストのページネーション機能を作り込んでいる場合や、注文数とユーザーがそれまで使った総額でフィルタする機能を実装したい場合が考えられます。そうしたツールはElasticSearchをはじめいろいろありますが、わずか数カラムを処理するためだけに大げさな検索エンジンとそれに必要なインフラをセットアップするのは少々やりすぎ感があります。もっと素直な方法を見つけましょう!
本記事のコード例はすべてgistでご覧いただけます。
トリガーを引く指
本記事ではすべてのコード例でPostgreSQLを利用します。
以下のデータモデルで考えてみましょう。
ActiveRecord::Schema.define do
create_table "orders", force: :cascade do |t|
t.bigint "user_id", null: false
t.decimal "amount"
t.datetime "created_at", precision: 6, null: false
t.datetime "updated_at", precision: 6, null: false
t.index ["user_id"], name: "index_orders_on_user_id"
end
create_table "users", force: :cascade do |t|
t.datetime "created_at", precision: 6, null: false
t.datetime "updated_at", precision: 6, null: false
end
add_foreign_key "orders", "users"
end
class User < ActiveRecord::Base
has_many :orders
end
class Order < ActiveRecord::Base
belongs_to :user
end
ユーザーを注文の総額でフィルタしてページネーションする方法を考えてみましょう。素のSQL文なら簡単にやれますが、たちまちパフォーマンスの問題が発生するでしょう。このことを示すために、ユーザー数10,000人と注文数100,000件をデータベースに入れて、explainを実行します。
User.insert_all(10_000.times.map { { created_at: Time.now, updated_at: Time.now } })
Order.insert_all(
10_000.times.map do
{
user_id: rand(1...1000),
amount: rand(1000) / 10.0,
created_at: Time.now,
updated_at: Time.now
}
end
)
ActiveRecord::Base.connection.execute <<~SQL
EXPLAIN ANALYZE SELECT users.id, SUM(orders.amount), COUNT(orders.id)
FROM users JOIN orders ON orders.user_id = users.id
GROUP BY users.id
HAVING SUM(orders.amount) > 100 AND COUNT(orders.id) > 1
ORDER BY SUM(orders.amount)
LIMIT 50
SQL
上の結果は以下のような感じになるでしょう。
Limit (cost=3206.16..3206.29 rows=50 width=48) (actual time=59.737..59.746 rows=50 loops=1)
-> Sort (cost=3206.16..3208.95 rows=1116 width=48) (actual time=59.736..59.739 rows=50 loops=1)
Sort Key: (sum(orders.amount))
Sort Method: top-N heapsort Memory: 31kB
-> HashAggregate (cost=2968.13..3169.09 rows=1116 width=48) (actual time=59.103..59.452 rows=1000 loops=1)
Group Key: users.id
Filter: ((sum(orders.amount) > '100'::numeric) AND (count(orders.id) > 1))
-> Hash Join (cost=290.08..2050.73 rows=73392 width=48) (actual time=2.793..37.022 rows=100000 loops=1)
Hash Cond: (orders.user_id = users.id)
-> Seq Scan on orders (cost=0.00..1567.92 rows=73392 width=48) (actual time=0.011..11.650 rows=100000 loops=1)
-> Hash (cost=164.48..164.48 rows=10048 width=8) (actual time=2.760..2.760 rows=10000 loops=1)
Buckets: 16384 Batches: 1 Memory Usage: 519kB
-> Seq Scan on users (cost=0.00..164.48 rows=10048 width=8) (actual time=0.006..1.220 rows=10000 loops=1)
Planning Time: 0.237 ms
Execution Time: 64.151 ms
データベースが育つとさらに多くの時間がかかるようになりますので、うまくスケールする、よりよいソリューションを見つける必要があります。データベースの正規化レベルを下げて、orders_amount
を別のuser_stats
テーブルに保存してみましょう。
上の実装例はgistで1ファイルにまとまったものをご覧いただけます。
class CreateUserStats < ActiveRecord::Migration[6.0]
def change
create_table :user_stats do |t|
t.integer :user_id, null: false, foreign_key: true
t.decimal :orders_amount
t.integer :orders_count
t.index :user_id, unique: true
end
end
end
このとき、orders_count
とorders_amount
の同期を維持する方法を決定しておくべきです。ここでは(マイグレーションなどで)素のSQL文を用いてデータを変更した場合でもuser_statsが正しく更新されるようにしたいので、Active Recordコールバックはそうした操作を行う場所としてはふさわしくなさそうです。Railsには一応counter_cache
オプションも組み込まれていますが、orders_amount
には通用しません。トリガーを引いて助けましょう!
トリガーとは、テーブルでINSERTやUPDATEやDELETEが実行されたときに自動的に呼び出される関数です。
Railsアプリでトリガーを利用するには、hair_trigger gemやfx gemを使う方法もありますし、手作りする方法もあります。本記事のコード例ではhair_trigger gemを用いています。このgemは、SQLプロシージャの最新版のみを用いてトリガー更新するマイグレーションを生成できます。
ここでご注意ください!hair_trigger gemはRails 6とZeitwerkで既知の問題が発生します(#84)。もしこの問題を踏んだら、とりあえず私のfork版をご自由にお使いください。修正が済んだら元に戻すのをお忘れなく(訳注: 現時点では#84はまだオープンされています)。
訳注: hair triggerは「引き金が軽い」、転じて「気が短い」ことを表す慣用表現です。
それではOrder
モデルにトリガーを追加しましょう。ここで実行したいトリガーはUPSERTです。つまりマッチするuser_id
がuser_stats
にない場合は新しい行を1行追加し、それ以外の場合は既存の行を更新します(user_id
には必ずunique
制約をかけておくこと)。
class Order < ActiveRecord::Base
belongs_to :user
trigger.after(:insert) do
<<~SQL
INSERT INTO user_stats (user_id, orders_amount, orders_count)
SELECT
NEW.user_id as user_id,
SUM(orders.amount) as orders_amount,
COUNT(orders.id) as orders_count
FROM orders WHERE orders.user_id = NEW.user_id
ON CONFLICT (user_id) DO UPDATE
SET
orders_amount = EXCLUDED.orders_amount,
orders_count = EXCLUDED.orders_count;
SQL
end
end
そしてrake db:generate_trigger_migration
を実行してマイグレーションを生成し、rails db:migrate
でマイグレーションを実行してからアプリを実行します。
競合状態にまっしぐら
訳注: 原文見出しのoff to the racesは「素早く行動する」という慣用表現を競合状態にかけています。
どうやらうまく動いているようですが、複数の注文をパラレルにINSERTしようとしたらどうなるでしょう?(以下のコードはrakeタスクとしても実行できますし、私の実装をgistでご覧いただくこともできます)
user = User.create
threads = []
4.times do
threads << Thread.new(user.id) do |user_id|
user = User.find(user_id)
user.orders.create(amount: rand(1000) / 10.0)
end
end
threads.each(&:join)
inconsistent_stats = UserStat.joins(user: :orders)
.where(user_id: user.id)
.having("user_stats.orders_amount <> SUM(orders.amount)")
.group("user_stats.id")
if inconsistent_stats.any?
calculated_amount = UserStat.find_by(user: user).orders_amount
real_amount = Order.where(user: user).sum(:amount).to_f
puts
puts "Race condition detected:"
puts "calculated amount: #{calculated_amount}"
puts "real amount: #{real_amount}."
else
puts
puts "Data is consistent."
end
上のコードは競合状態が発生する可能性が非常に高くなっています。その理由がおわかりでしょうか?問題は、このトリガーが現在のトランザクションの「内部」で実行されることと、デフォルトのトランザクション分離レベルがREAD COMMITTED
になっていることです。この分離レベルでは競合状態を扱えません。
PostgreSQLでは「READ UNCOMMITTED」「READ COMMITTED」「REPEATABLE READ」「SERIALIZABLE」という4つのトランザクション分離レベルをサポートしています。
ここで明らかなソリューションは、分離レベルをより厳密なSERIALIZABLE
にすることですが、残念ながら実行中のトランザクションの内部では分離レベルを臨時に切り替えられません。注文を扱うたびに明示的に新しいトランザクションを発行するのは正しい方法とは思えないので、トリガーを常にシーケンシャルに実行するための別のアプローチを試してみましょう。つまりadvisory lock(勧告的ロック)を使います。
ここで必要な変更は、プロシージャコードの冒頭にPERFORM pg_advisory_xact_lock(NEW.user_id);
を追加するだけです。
class Order < ActiveRecord::Base
belongs_to :user
trigger.after(:insert) do
<<~SQL
PERFORM pg_advisory_xact_lock(NEW.user_id);
INSERT INTO user_stats (user_id, orders_amount, orders_count)
SELECT
NEW.user_id as user_id,
SUM(orders.amount) as orders_amount,
COUNT(orders.id) as orders_count
FROM orders WHERE orders.user_id = NEW.user_id
ON CONFLICT (user_id) DO UPDATE
SET
orders_amount = EXCLUDED.orders_amount,
orders_count = EXCLUDED.orders_count;
SQL
end
end
速くなりましたね!gistにある更新版のコードを実行していただければ、競合状態が解消されてアプリがパラレルなリクエストを扱えるようになったことを確認できます。今度はuser_stats
テーブルのorders_amount
カラムにインデックスを追加してから、クエリを変更してパフォーマンスを比較してみましょう。
EXPLAIN ANALYZE SELECT user_id, orders_amount, orders_count
FROM user_stats
WHERE orders_amount > 100 AND orders_count > 1
ORDER BY orders_amount
LIMIT 50
Limit (cost=0.29..22.99 rows=50 width=40) (actual time=0.059..11.241 rows=50 loops=1)
-> Index Scan using index_user_stats_on_orders_amount on user_stats (cost=0.29..3438.69 rows=7573 width=40) (actual time=0.058..11.2 rows=50 loops=1)
Index Cond: (orders_amount > '100'::numeric)
Filter: (orders_count > 1)
Planning Time: 0.105 ms
Execution Time: 11.272 ms
ロックを使わない方法
実は、ロックを使わずに同じ結果を得られ、しかも高速に動く方法があるのです(提案してくれたのはSergey Ponomarevです)。それは以下のようにdeltaを使う方法です。
class Order < ActiveRecord::Base
belongs_to :user
trigger.after(:insert) do
<<~SQL
INSERT INTO user_stats (user_id, orders_amount, orders_count)
SELECT
NEW.user_id as user_id,
NEW.amount as orders_amount,
1 as orders_count
ON CONFLICT (user_id) DO UPDATE
SET
orders_amount = user_stats.orders_amount + EXCLUDED.orders_amount,
orders_count = user_stats.orders_count + EXCLUDED.orders_count;
SQL
end
end
ポイントはサブクエリを一切用いていないことで、これによって競合状態は発生しなくなります。さらにボーナスとして、新しいレコードをINSERTするときのパフォーマンスも向上します。このアプローチは、本記事で説明しているようなシンプルなケースでは有用なこともありますが、もっと込み入ったロジックを扱う場合は最終的にロックに頼らざるを得なくなるかもしれません(例: 注文にステータスがあると、注文のカウントをステータスごとにキャッシュして注文を更新可能にする必要がある)。
完全な実装についてはgistをご覧ください。
UPSERTの代わりにループを使う
先の例ではPostgreSQL 9.5で導入されたUPSERTを使いましたが、それより前のバージョンではどうなるのでしょう?ここでトリガーの動作をおさらいしてみましょう。トリガーはuser_stats
テーブルへの新しい行のINSERTを試み、コンフリクトが発生したら既存の行を更新します。現実のアプリケーションでは「ほとんどの場合で」コンフリクトが発生します(正確に言うと、INSERTはユーザーごとに「1回しか発生しません」)。この事実を利用すれば、トリガーを以下のように書き換えられます。
トリガー内でループするコード例についてはgistをご覧ください。
class Order < ActiveRecord::Base
belongs_to :user
trigger.after(:insert) do
<<~SQL
<<insert_update>>
LOOP
UPDATE user_stats
SET orders_count = orders_count + 1,
orders_amount = orders_amount + NEW.amount
WHERE user_id = NEW.user_id;
EXIT insert_update WHEN FOUND;
BEGIN
INSERT INTO user_stats (
user_id, orders_amount, orders_count
) VALUES (
NEW.user_id, 1, NEW.amount
);
EXIT insert_update;
EXCEPTION
WHEN UNIQUE_VIOLATION THEN
-- do nothing
END;
END LOOP insert_update;
SQL
end
end
ここではロジックを反転させて、トリガーはまず既存の行のUPDATEを試み、失敗した場合は新しい行をINSERTしています。
集計データの扱いは面倒です。カウンタ(あるいはその他の)キャッシュが多数ある場合は、そのための特別なツールを使う方が理にかなっています。しかしシンプルなケースであれば、昔ながらのデータベーストリガでもやれるのです。設定が正しければ、相当なパフォーマンスを発揮してくれます。
Evil Martiansでは、火星人流の製品開発およびご相談を承ります。