皆さまこんにちは。先日お知らせさせていただいたように国際電子出版EXPOに今年も参加して参りました。
Vivliostyle(ビブリオスタイル)社と一緒に出展させていただきました。
Vivliostyleとは
Vivliostyle社はワンソース・マルチユースで電子書籍もWebも紙の本の出版をWebブラウザベースの自動組版システムで実現しようとしている企業です。そして僕らはEPUBベースの漫画や雑誌向けの軽量高速ビューアを提供している企業です。今回はご縁があって光栄にもご一緒させていただくことができました。
BPS x Vivliostyle ポスター
MediaDo(メディアドゥ)社ブース内で専門書領域への挑戦について講演させていただきました。
講演内容も文字でご覧になりたい方はこちらになります。
始めまして。ビヨンド・パースペクティブ・ソリューションズ株式会社(以下BPS)の榊原と申します。最初に我々がどのようなことをやっている会社なのかと私榊原の簡単な自己紹介を交えましてお話させていただきたいと思います。
我々BPSは2007年に設立しまして、当初はECサイトやコーポレートサイトの開発事業をしておりました。電子書籍事業に携わるようになったのは5年程前からで、主に読むためのソフト、ビューアソリューションの提供をしております。その他にも珍しい事業で言えば大学などの各教育関係各所との提携、サポートなどを行う研究開発事業も行っています。
私榊原ですが、弊社が電子書籍事業に参入し始めた2010年まで大学でネットワーク関係の研究を行っておりました。その後BPSとご縁があり、働き始めるようになってからも助成金の獲得を始め、大学での非常勤講師も行うなど、今でもIT分野の研究を続けております。
さて、いよいよ本日の議題である、「専門書系配信ソリューションに必要な技術とビジネスの可能性」について話を進めていきたいと思います。まず電子書籍の市場規模については現在約3000億円だと言われています。以前はご存知のように紙の媒体が主流でしたが、スマートフォン、タブレット端末の普及に伴ってこれからはますますペーパーレス化が進むものと予想されています。皆さんが接する電子書籍のほとんどは漫画や小説だと思いますが、これらは物語を楽しんで思いを馳せるもの、つまりコンテンツを消費していくタイプだと言えます。一方、教科書や専門書はと言うとこれらには「知識」が書いてあります。漫画や小説との読み方として大きな違いは重要な箇所にマーカーを引いたり、知識を書き込んでいく、知識を反映できる点にあると思います。つまり教科書、専門書の役割としては「知識を得る」ことと「吸収した知識をアウトプットするのに役立つ」、読み方、求められているものに漫画、小説と大きな違いがあると思われます。
それでは次に具体的にどんな機能が必要か具体的に考えていきましょう。まず表示の仕方ですが、コマ割されている漫画を電子書籍化する場合には大きさを等倍率で表示する方が見やすいでしょうし、小説などはリフローで画面のサイズに合わせた表示の仕方をした方が読みやすいですよね。論文などは文字が羅列して書いてあることが多いので、リフローによる表示で問題ないかと思いますが、日本の教科書はレイアウトまで凝って見やすくしてあるものが多いんです。そこで漫画と同じく固定で表示する方法をとっていたりします。同じ専門書でも教科書と論文などの違いによっても表示方法を変えているのです。
次に専門書に求められる要件としては「ユーザーのインタラクション」が挙げられます。漫画ではそうそう無いかと思いますが、小説を読んでいると分からない単語や言葉を見かけることが多々あります。そのままその箇所を選択して検索エンジンで検索出来る点が紙には無い便利な点です。ただ、教科書、専門書に求められるインタラクションはもっと多岐に渡っていきます。受験勉強などの際に分からない箇所にマーカーを引いて色の異なるシートを被せて文字を消して暗記した…という懐かしい記憶をお持ちの方もいるでしょう。これ要は分からない箇所をリストアップして列挙しているということですよね。専門書などでは当然一般には使わない専門用語がたくさん出てきます。小説を読むより調べる回数は確実に多くなるでしょう。また、先生に言われて重要な箇所にグルグルと印をつけることもあったと思いますが、電子書籍では先生と生徒が同じ画面を見られるのであれば、より理解度が高まると思います。これらの専門書を読む際にソフトウェアに求められるポイントというのは、単に表示する方法だけでなく、分からない言葉をすぐに調べられる「ウェブ検索機能」だったり、覚えるのに役立つ「マーカー文字列リストアップ機能」、先生と生徒が共有出来る「アノテーション機能」など、理解の補助も求められているという点がポイントだと思います。
冒頭でBPSではビューアーと呼ばれる「読むためのソフト」を提供していると言いましたが、主に電子書籍のフォーマットの一つであるEPUBのビューアーを主に作っています。それが漫画などを読む際に役立つ画像に特化したビューア「超画像」や、日本独特の縦書きを見やすくした「超縦書」などの「超」EPUBシリーズです。縦書きに特化したビューアを提供している会社は国内でも数少ないので、BPSでは1,2を争うと自負しています。
その辺りを踏まえて、今回メディアドゥさんにお力を貸せる部分が大きく3つあると思いましたので順次説明させていただきます。まず1つ目の強みは、出版・組版に対する知識が高いこと。縦書きのレイアウトに特化した「超縦書」は国内でも数少ないとお話しましたが、日本の縦書きは色んな表示の技術を要しています。読み仮名(ルビ)のふり方や、圏点の表示、また数字やアルファベットなどを読みやすくする縦中横と呼ばれる表示技術、禁則処理など例を挙げていくとキリがないほどです。紙印刷であればDTPツールやアドビのインデザインなど、表現豊富なソフトウェアはあるのですが、HTMLやCSSだけではこれら全ての組版を表現するにはどうしても用件が足りない、紙印刷されたものにレイアウトをより忠実に近づけようと表示するには力不足になってしまうのです。弊社の「超縦書」では実際に出版社からの意見を取り入れることで、より正確で自然な形に表現出来るように改善していますので、読みやすい、見やすい表現の提供が可能になっているんです。
2つ目の強みは高いソフトウェア実装力です。再度「超縦書」を例に出して説明しますが、超縦書を作る際にはGoogleのブラウザ、Google Chromeの一番の核となる「Blinkコアエンジン」を基本ベースに、色々な組版要素を追加してソフトウェアの作成をしております。
ただ、このBlinkエンジンだけでもソースコードが200万行くらいになってしまい、縦中横などの縦書き独特な表示がうまく表示されない場合、どこを修正したら良いのか探すだけでも開発する者たちにとっては厄介なことなんです。そこに加えてページを高速でめくるには欠かせない、GPUに適切な処理を加えてあげる必要が出てきます。さらに、最近では「超縦書」のWindows版をリリースしたのですが、ユーザーの方から「フォントが汚い」というご意見をいただきました。もともとWindowsというのはそこまでフォントレンダリングが綺麗ではありませんでしたが、BPSではフォントを書き出す部分ごと交換してしまいました。するとMacほどではないにしろ「見やすくなった」「綺麗だ」と満足してもらえることが出来ました。これらのことを行うだけでも相当な実装力を要します。「こうしたいな」「こうなったら便利だな」という思いがあっても実際にそのソフトウェアを作れる技術がないと話になりません。BPSではそれが可能であるという点が大きな強みとして言えると思います。
3つ目の強みは最新技術への追従です。昨年BPSは「W3C(ワールドワイド・ウェブ・コンソシアム)」という団体へ加盟しました。このW3Cは世界標準となるHTMLやCSSを制定している団体です。簡単に済ませてしまいますが、EPUBとはHTMLやCSSをZIPでまとめたもの。W3CではHTMLやCSSなどの表示に関わる部分を制定しているのですが、表示に関わる部分以外のZIPなどを管理しているのがアメリカの「idpf」という団体もあります。我々としてはどちらに加盟しても良かったですし、本当であれば両方に加盟したかったところですが、ひとまず表示に関わるW3Cの方に加盟させていただきました。このW3Cという団体、取り組みとして非常に面白いことをやっていて、組版仕様について考察するCSS WG(ワーキンググループ)や、次世代のEPUBについて考えるDPUB IG(インタレストグループ)などがあります。特にこのDPUB IGの取り組みが興味深くて、例えばZIPはストリーミング配信に不向きなEPUBの圧縮技術になってしまうのですが、これらを撤廃して新しくもっと優れた圧縮技術を開発しようと動いていたりします。他には、専門書の所で話が出ましたが、アノテーション(共有)をもっと当たり前に提供出来ないかと考えるWEB Annotationという取り組みだったり、新しい世界に関する技術が日々話し合われているという団体です。私たちとしても加盟したばかりなので、まだそれほど強い発言権を持ててはいませんが、今後もっと積極的に参加していくことで最新技術をいち早く取り入れられますし、またユーザーからのフィードバックを生かして逆にBPSの方から提案するといった可能性も十分に考えられることです。電子書籍の分野はまだまだ改善する余地もありますし、表示技術だけじゃなく、ネットワークで共有するWEB Annotationなど新しいサービスも登場してきますので、そういった最新情報を素早く仕入れられるというのが最後の強みだと言えますね。これら3つの強みを生かして、専門書領域に強いメディアドゥ様と組むことで、お互いの良い所を合致させて新しい電子書籍領域を開拓していけるのではないか、そんな風に考えております。
EPUBの話ばかりしてきてしまいましたが、ここでPDFの話も少し絡めて、今後専門書のフォーマットに関するお話をしておきましょう。現在EPUBとPDFが2大電子書籍フォーマットです。先述した通り、EPUBがHTMLやCSSをZIPでまとめたものに対し、PDFは印刷用のPostScriptをベースに発展させたフォーマットなので、表示能力が固定的であるというのが大きな特徴です。そしてもう一つ決定的な違いというのが、DTPソフトなどを使った際にPDFの方がはきだしやすいということが挙げられると思います。EPUBの場合ですと、そのままはきだせないため、余計なコストがかかってしまうという部分があります。現状まだまだPDFに推されている部分ですね。しかし、当然EPUBにしか出来ない強みもあります。教育業界や専門業界において注目されているのが「edu PUB」です。先述したWEB Annotationの機能やQ&A機能をEPUBの中に組み入れることで、先生と生徒、教える側と教えられる側の共有がより一層深いものとなるのが利点です。アメリカにあるIMSという団体ではこのQ&Aシステムを既に多用しているという実例もあります。こういったインタラクションの部分がもっと組み込まれて活用されるようになると、EPUBももっと多くのユーザーに使われるフォーマットになる可能性を十分に持っていると思います。また、今後専門書領域に求められる機能としては次世代EPUBであるDPUBに興味関心があります。特にWEB Annotation機能に関してはどうやってネットワーク化するかやフィードバックはどうするかなど、問題は山積してますが、これらを解決していけばきっと有用なフォーマットとなるでしょう。まだまだ可能性、拡張性があると信じています。